満員電車にて
この作品は、黒尾の高校1年生の時間軸でスタートしています。
摸造されている箇所が多々ありますので、ご了承ください。
この作品の黒尾は、当社比でキャラ崩れしている感がありますので、お気を付け下さい。
上記をご了承のうえで、お読みいただければと思います。
うだるような熱気、押しつぶされるであろう車内に乗り込んだ。
なんてついてない。電車が大雨で遅延して振り替え輸送、こんな日に限って英語の小テストがある。
予定なら電車で英熟語の参考書を開いて一気に覚えるはずだったのに。
またため息ひとつ、こんなに混んでいる車内じゃあ、ため息だって空間を圧迫しそうだ。
あ、電車、揺れた。足元にあった何かを踏みかけた。
「す、すみません」
「いーよー」
なんだか聞いたことがある声だなと思った。
顔を上げると背の高い男の子が私を見下ろしていた。
私の顔が今すぐにでも彼のシャツにくっつきそうなくらいに近くて驚いて、次に教室で見たことがある人だと気づいて眉をひそめた。
「えー…っと…」
「黒尾、黒尾鉄朗」
「あ…!」
「ちなみに同じクラスですヨ」
「ご…ごめん」
「まあ、俺も全員覚えてないから」
でも、私のことは覚えていてくれたのか。
また電車が揺れて、彼の胸板に頭突きをしてしまった。
「ごごごめん!」
「いーって、さん。それよりこっちのほう来たら」
軽く引っ張られて、電車の揺れに合わせて移動する。
車両の隅っこの扉を背にし、前には黒尾君が立っている。
…大きい人だ、えーっと、確か、そうだ。
「バレー部、だよね」
「そっちは知ってたのか」
「そっち?」
「名前は覚えてなかったから」
「う…、同じクラスなのはわかってたよ」
「まー、まだそんなしゃべったことないしな。おっと」
「!」
私のすぐ横に、黒尾君が手をついた。
ちょうど電車の中の光が黒尾君を照らして、影に覆われる。
な、なんだろ、こわい。
「さんさ、これからよろしく」
まるで捕まったかのような錯覚をした。
逃げ出したいのに、電車は線路の上で止まってしまった。
end.