ハニーチ

小話





*


「忘れられてた」

黒尾は、学生鞄を無造作に放った。

床に座ってゲームをしていた研磨が怪訝そうに黒尾を見上げた。

視線に気づいて、黒尾は不満げに口を尖らせて続けた。


「アイツ、これっぽっちも俺のこと覚えてなかった」

「…誰」

「前に言っただろ、運命的にめぐりあえたって言った」

「ああ…」

「もう少し様子見るつもりだったけど、今日、たまたま同じ電車に乗れたから乗ったら…」

「避けられた?」

「じゃねーよ。声かけたら、名前すら覚えてもらってなかった。同じクラスだってのに」


研磨はゲームから視線を外して、カレンダーを見た。


「まだ高校入って3か月も経ってないじゃん」

「俺は!ずっと覚えてたんだよ」

「クロはね。…しつこすぎ」

「しょうがないだろ」


黒尾は、人のベッドに背中から遠慮なく倒れこんだ。


ちゃんは、俺の初恋なんだから」


*