小話
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「忘れられてた」
黒尾は、学生鞄を無造作に放った。
床に座ってゲームをしていた研磨が怪訝そうに黒尾を見上げた。
視線に気づいて、黒尾は不満げに口を尖らせて続けた。
「アイツ、これっぽっちも俺のこと覚えてなかった」
「…誰」
「前に言っただろ、運命的にめぐりあえたって言った」
「ああ…」
「もう少し様子見るつもりだったけど、今日、たまたま同じ電車に乗れたから乗ったら…」
「避けられた?」
「じゃねーよ。声かけたら、名前すら覚えてもらってなかった。同じクラスだってのに」
研磨はゲームから視線を外して、カレンダーを見た。
「まだ高校入って3か月も経ってないじゃん」
「俺は!ずっと覚えてたんだよ」
「クロはね。…しつこすぎ」
「しょうがないだろ」
黒尾は、人のベッドに背中から遠慮なく倒れこんだ。
「ちゃんは、俺の初恋なんだから」
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