ハニーチ

朝、通学路にて




朝から自主参加の講習があるから、ためしに参加してみようと早起きをしたのが運のつき、だったかもしれない。

なぜなら黒尾君に見つかったから。
嫌いじゃない。きらいじゃないんだけど、なんか、怖い。


さんさあ、LINEのアカウントある?」

「そりゃ…あります、けど」

「歯切れ悪いな」

「い、いいえ」

「教えてもらっていー?」

「……うん」

「その間はなんですか」

「いえ、別に。あの、悪用はしないでください」

「しませんよ、このボクが」

「……」

「するわけないダロ、さんの大事な大事な連絡先を」

「そこまで大事でもないけど…」

「!誰にでも教えんの?」

「いやっ、誰彼かまわず教えはしないけど」

「なら…、よし」


黒尾君は、私のお父さんかお兄さんなんだろうか。
なんで頭を撫でられたんだろう。


「今日、早いな。なんかあった?」

「数学の講習」

「ああ…、今日だったっけ」

「黒尾君はなに?」

「朝練ですよ」


黒尾君は、ジャージが入っているだろうバッグを指さした。


「がんばれー」

「がんばるー、から、観に来ない?」

「なにを?」

「俺が、練習してるとこ」

「いや…見ても」

「…こないだのサッカー部はどうだったの」

「ああ、うん、なんかすごかった」

「どう?」

「人数いっぱいいてきつい」

「ああ、覚えられないって意味ね」

「みんな同じに見えちゃうんだよね」


黒尾君はじっとこちらを見てから、自分の顔を指さした。


「俺は?」

「は?」

「俺の顔、どうですか?」


なんと、いえば、いいのか。

しばらく考えてから結論を出す。


「かっこいい…んじゃ、ないでしょうか?」

「ぶっ」


噴出されてしまった。


「みんなと同じ顔に見えるかって話のつもりだったわ」

「あ、ああ!そっちね!はい、黒尾君は黒尾君です!もう笑わないで恥ずかしい!」

「いやーよかった、さんに嫌われてんのかとばかり思ってたから」

「思ってないでしょ、ぜったい」


女子に人気あるって、先輩達にも声かけられたことあるって、私はリサーチ済なんだからね。
べしべしっと黒尾くんの腕をはたくと、ひょいと距離が近づいた。


「思ってた」


この距離感、苦手だ。


さんに嫌われてなくてよかった、本気で」


少しだけ電車が揺れて、黒尾君が背を正して距離が離れた。


「降りないと」

「そ、そうだね」

「んで、練習、観に来てくれる?」


かしこまっていうから、なんだかむずがゆくて、急いで電車を降りた。


「講習が早く終わったらね」


早口に告げて、さっさと改札に向かった。


end.