ハニーチ

朝練の見学



「うわ」


すっごいジャンプ力だ。
黒尾くんってすごい。これで同じ高1なのか。

講習は30分で終わった。
ホームルームまで時間があって、さすがに無視するのもなと罪悪感を払しょくするためにも体育館に向かった。

朝練をしている人はいっぱいいるかと思ったけど、全員じゃなさそうだった。

誰かに見られて目立っても嫌だったから、体育館のはしっこから覗いていた。

ら、でかい人に声をかけられた。


「なにしてんの?」

「あ、えっと、その」

「興味あるなら中で見てきなよ、こっち」


先輩だろう、きっと。こすれたサインペンで名前が書かれた体育館履きを見て思った。
手が伸びてきたけど、緊張から身体は動かなかった。


どっ、


と、とんでもない速さのボールが、私とその人の間を突っ切って行った。



「スイマセーン、手元狂いましたー」


にこやかに、この人は何を言っているんだろう。

ボールの主は黒尾君だった。


「先輩、あっちで呼んでますよ」

「…ああ」


その人が体育館の奥に入っていく。

黒尾君がこっちを向いた。


さん、俺が悪かった。やっぱりもう来なくていい」

「は?」

「あの先輩さー、そういうところあんだよな。ほんと、困るわ、練習に集中できない」

「あの」

さんも拒否ればいいのに動かねーし」


黒尾君は一方的に言葉を連ねた。
ボールを拾いに行って、すぐ戻ってきた。

チャイムが鳴った。

ぽっと言葉が飛び出した。


「練習、見てて面白かったよ。黒尾君のだけね」


視界、奪われてた。
気づいたら、黒尾君を追っていた。

他の人の練習はチラッと見ておしまいだったのに、人を引き付ける人は違うんだと思う。
さすが、上級生にもモテる人だ。


「また、見てみたかったけどな。じゃあね」


ひらひらと手を振って去る、体育館。
私の中の黒尾君が塗り替えられる。



end.