ハニーチ

お昼休み




黒尾くんって思ってたより悪い人じゃない。
なんだか、ほっとした。
よかった。

そう安心してたのがまずかったのか。

ひとりでポツンとお昼を食べていると、黒尾君がまた現れた。
別に一緒にいたい訳じゃないんだけどな。


「食堂、めずらしいじゃん」


あ、座るんだ。
今日はそんなに混んでいない食堂で、黒尾君は私の真向かいに座った。


「何食ってんの?」

「から揚げ丼」

「好きだな、それ」

「人気メニューですし」

「俺はカレー」

「カレー、食べたことないや」

「一口やろっか?」


え、間接キスでは。

そう思うより早くスプーンがやってきた。一口分。


「はい、さん」

「いや、でも…」

「まだ口付けてないからへーきだって」


言われてみれば、黒尾君はまだカレーを食べ始めていなかった。


「ほら、早く」


急かされるままぱくりと食べた。


「…普通だね」

「どれ」

「あ」

「なに?」

「な、な、なんでもない」


黒尾君がまだ食べてなくても、これから食べるんだから、やっぱり間接キスじゃん…!!

言ったら、意識してるのがバレバレだから言わないでおこう。気にしないヒトっているもんね。うん、黒尾君は気にしない人なだけだ。


「から揚げ、くんない?」


何の気なしに黒尾君が言うもんだから、割り箸の口を付けていない方で、ひとつつまんでカレー皿に乗っけてあげた。

黒尾君がなぜか笑う。
なんで笑ったのって聞いても答えてくれなかった。
この人、ずるいなあ。


「いつも一緒の森さんは、今日どうしたの?」

「サッカー部の矢倉先輩と一緒に過ごしてますよ」

「あー、森さん、結局サッカー部のマネージャーやったのか。一人?」

「ううん、隣のクラスにも希望者いたらしいから」


最終的に4人だったはず。
私は入らなかったから、自然と一緒にいる機会も減った。


「寂しい?」

「何が?」

さん、女子のグループに入ってくタイプじゃないから」


言われてみると確かに、誰かと一緒じゃなきゃ!って派でもない。
友達がいない訳じゃない。グループになる友達もいるし、おしゃべりする相手もいる。
ただ、ずっと一緒にいないだけだ。


「寂しくないよ。寂しい人に見える?」


黒尾君のカレー皿は半分くらいになっていた。
黒尾君は水を飲みながら、否定した。


「見えねー」

「そっか。まあ、黒尾君も話しかけてくれるしね」


そういえば。


「どうしていつも話しかけてくれるの?」

「……」

「私がひとりでいるから?寂しそうに見えた?」


黒尾君の眉が動いた。

少ししてから唇が動く。


「宝箱があったら開けたくなる」

「…宝箱?」

「人間は誰しも宝箱で、しゃべってみると中身がわかるんだと。一人でポツンとしている宝箱があったら話してみたくなる、って知らない?」


言われてみると聞いたことがある、気がする。
でもどこだったか思い出せない。
ただ、知っている。


「ほんとに、憶えてねーの? ちゃん」


黒尾君が、からっぽになったプラスチックのコップをテーブルに音を立てて置いた。



*