ハニーチ

ある日の告白



夜久さんたちが2年生の時の話を摸造しています。

2016年4月時点の情報を元に書いているため、その点、ご了承ください。

なお、原作で過去編が描かれた場合も、本作への反映および矛盾点の修正は折りを見て、となりますので、気になる方は閲覧されないことをオススメします。

それでは、上記を踏まえて本編をお楽しみいただけるとうれしいです。


















昨日で、3年生の先輩達は卒業した。
新学期が始まれば、自分も含め現2年生がいよいよ最終学年となる。

先輩達がバレー部を引退した時点でもよかったが、自分なりのけじめもあって今日という日を選んだ。

ちょうどいい頃合いだと思った。

桜もちょうど咲き始めていて、雰囲気もある。
ほんの少しの緊張を持って、深く呼吸をする。
春の匂いを吸い込んで気持ちを落ち着け、呼び出した人物を待つ。

もう足音が聞こえてきた。
このリズム感覚、もうだと確信していた。


「夜久さん、話ってなんですか?」


は、いつもと変わらない様子で現れた。

だからこそ、秘めたる想いを告げる絶好のタイミングだと夜久は思った。

校舎裏、早咲きの桜が見守るその場所で、夜久は意を決した。


が、好きだ」


普段と変わらぬトーンで告げられると思っていたのに、いざ想い人を前にすると声に緊張が滲んでいた。

どう返事が来るだろうか。

夜久がの返事を待つ覚悟でいたところ、予想に反しては即答した。


「はい!私も夜久さんが好きです!」


そうじゃ、ない。
いや、嬉しいけど。今は、…そういう意味じゃない。

夜久は一瞬だけ嬉しさを噛み締めてから、自分の意図が通じていないことを理解して頭に手を添えた。
の口にした『好き』と、俺の『好き』は違う。


「あー、いや。そういう意味じゃなくてだな」

「え、あ、まさか、嘘だったんですか!?」

「いやそれも違う! …あのさ、が言った“好き”って、どういう意味?」

「どういう…」


合点がいかない様子のがしばし考え込んでいる。

普通、こういう状況で、呼び出しされたら、予想つくんじゃないのか?
それとも、は俺からそういう好きを言われるってまったく考えたことないってこと?

複雑な心境で、腕を組んで考えているを見守っていたが、ふと何かの答えに辿り着いたらしいが目をぱちくりさせた。
これは、ようやく察してくれたに違いなかった。

はまだ半信半疑であるのが見てとれたからこそ、それが正解だと念を押すように夜久は一歩に近づいた。


「わかったか?」


それは柔らかな問いかけだった。


「え、えーー…っと」

「なんだよ」

「いや、その、や、や、夜久さんが言った、す、す、す…」

「す?」

「す、す…」

「『す』ばっかだな」

「だ!だって、…え?夜久さん、これドッキリですか?」


今度は挙動不審で辺りを見回すを落ち着けようと、夜久はさらに互いの距離を縮めた。


「ドッキリじゃなかったらどうなんだよ」

「あ、…それは、よかったです」

「おう」


周囲に向けていたの視線がゆっくりと上がってくるのが、夜久にはわかった。

目が合う。

何度だって交わしてきたアイサイン、このまま気持ちが伝わってしまえばいいのにと夜久は思った。


「恋愛感情として、が好きだ」


さっきと違って、すぐに返事は帰ってこない。

驚きから視線が外され、左右にの髪が揺れる。
その一挙手一投足から夜久は目が離せなかった。
これまでの距離感をわかっているからこそ想いを告げたとはいえ、拒絶される不安が消える訳もない。

なおも、夜久は言葉を重ねた。


「俺と付き合ってほしい」


は口元に手を当てて、こちらを見上げた。
その仕草も何もかも記憶しておけるよう、彼女から視線を外さなかった。

春の訪れを告げる風が自身の頬の熱を実感させた。


「返事、…今、もらえたら嬉しいけど」

「や…や、夜久さん、わ、私で、合ってますか!」


突然紡がれた言葉に面食らった。


「あのな、オレとしかいないこの状況で誰と間違えるんだよ」

「……そう、ですね」

には、俺がそういう大事な話を間違える男に見えんの?」

「み、見えないです…。ただ、その、嬉しすぎます」


はもう一度周囲を確認してから、こちらを向いた。


「ほんとに、本当ですか?」


若干声が裏返りつつ、『ほんとに私が好きですか』と確認するにこちらまでくすぐったさがこみ上げてくる。

頬をかきつつ、頷いた。


「そうだよ。…好きだから、付き合いたいんだろ」


これ以上、答えを催促はしなかった。
促されたからじゃなく、からの言葉が欲しかった。


「私でよかったら、その、よろしくお願いします!」


ようやく聞けた返事は元気よく告げられた。
待ち望んでいた肯定の言葉が耳に届くと、自分でも気づいていなかった緊張が夜久から抜けた。


「ああ、これからよろしくな、…彼女」

「!は、はい」

「真っ赤だな」


指での頬をなぞると、明らかに動揺して見えて笑ってしまった。


「夜久さん、からかわないで下さい…」

「今までだってこれくらいしたことあるだろ」

「ありますけど…」

「本当に、すげぇ赤い」


が逃げ出してしまわないように、いつもを装って夜久が距離をさらに縮めると、もまた動かず夜久の手のひらを頬で感じた。

指先からの緊張が伝わってきて、夜久が小さく笑いを零した。


「緊張しすぎ」

「すすみません」


まだ時が早いのはよくわかった。


「じゃ、そろそろ部活もあるから行くか」

「は、はい」


ぽん、ぽんと二度の頭を撫でてから夜久が少しだけ歩き出す。
も少しだけ遅れて横を歩いた。


両想い、

実感と喜びが込み上げてきて、前を向いたまま、の手に触れてみる。
は避けるそぶりがなかったので、振り払える程度の力で、彼女の手を握って歩いた。


end.