ハニーチ

告白後




手を繋ぐとは、触れること。
触れてしまえば、次は離れてしまう瞬間もある。

わかっているのに、わかっていなかった。
夜久は学校の屋内に向かいながらそう思っていた。

告白を終えたのは数分前。

感情が高ぶって、の手を握ったが、校舎が近づいてきたら当然離さなければならないとすぐ気づいた。

どのタイミングで放そうか。
誰かに見られたら、も恥ずかしがるかもしれない。

頭で分かっていても、それでも彼女を手放せない。

好きな子に触るって、こういう感じなのか。

はじめての感情を抱いて、今実感をもって理解する。
もういっそのこと、誰かに見られてもいいかもしれない。

そう思った矢先、見慣れた人物が渡り廊下を歩いていた。
すぐに相手もこちらに気づいた。


「夜久…と、


黒尾は足を留めて、すぐに繋いでいる手に気づいて口端を上げた。


「へえー」

「…なんだよ」

「いや。うまくいったみたいだな」


元々の性格なのか、黒尾は他人の感情の機微に鋭い。

への気持ちはとうに気づかれていた。
今さら隠しても仕方ない。
黒尾に知られていた方が余計な手出しをされない分、ましだろう。


「まあ、な」


と手を繋いでいることがわかるよう、重なった手を肩口の高さまで上げてみせた。

付き合ってんだから、もう手ぇ出すなよ。

気づいたらにらんでいたようで、『牽制すんなよ』と言われたから、『してねぇよ』と短く返した。
でも、ほんの少し本気で牽制していたかもしれないと内心思った。

ちょうどいい。
渡り廊下は、もう学校内だ。

名残惜しい気持ちはあれど、自分の我儘にいつまでも付き合わせるわけにはいかない。

夜久は、の手を離した。


「じゃあ、部活でな」

「はい」


の背が校舎に消えるまで目で追っていた、のを黒尾に気づかれてハッとした。
そういやいたんだった。


「なんだよ」

「めでたいと思って」

「あのな。…余計なことすんなよ」

「したことねーだろ」

「どの口が言ってんだ」


黒尾と会話する内に、いつもの調子を取り戻せてよかった。
じゃなきゃ、いつまでもさっきのとのことを思い出して、気持ちが落ち着けなかった。

…あんな反応、ずるい。あいつ、無意識でやってんだよな。そんな計算できるわけない。
そばにいて、これから、どれだけに振り回されるんだ。
って、他のこと考えないと。

夜久は部室に入って、ふとカレンダーを見た。

と初めて出会ってから、ちょうど1年が経つのか。

これから新しい季節が始まる。
その前に、懐かしいと呼ぶには近すぎる過去を思い出した。


end.